今から2年ほど前の2024年10月に国連女性差別撤廃委員会が、日本の女性政策に関連して、日本の皇室典範を男女の平等な皇位継承を保障するように改正すべきだと勧告した。日本政府は委員会に皇室典範に関わるこの記述を削除するよう申し入れたが、委員会に聞き入れられなかったので、日本政府は同委員会の拠出金を止めた。委員会は継承を男系男子に限るのは女性差別撤廃条約に反すると指摘、日本政府は皇位につく資格は基本的人権に含まれないと反論した。
日本国憲法は皇室典範より上位の法律である。憲法がすべての国民が法の下に平等であると言っている以上、下位の皇室典範がこれを無視するのはよろしくない、という国連女性差別撤廃委員会の見解はもっともである。皇位につく資格は基本的人権に含まれないという日本政府の主張の論理については、新聞はきちんと報道しなかった。想像するに、マックス・ウェーバーが『支配について』(野口雅弘訳、岩波文庫)で言ったように、家父長制の規範は「伝統」、つまり過去にずっとそうであったものはずっとそうであったのだから不壊であるという信仰にもとづいている――つまり理屈で説明がつくものではない、ということのようだ。
オーストラリア、ニュージーランド、カナダは立憲君主国で、国王はイギリス国王の兼任であり、したがって男女いずれもが君主の座に就く。君主の名代として総督がそれぞれの国に常駐する。これは各政府が指名する。現在は3ヵ国とも女性が総督の任についている。マレーシアもイギリス連邦加盟の立憲君主国であるが、国王は自国で選出している。国内の9つの州のスルタンが互選(実質輪番)で国王を務める。国の宗教がイスラム教で、女のスルタンは今のところいないので、国王は男性に限られる。ローマにあるバチカン市国の元首は教皇で、教皇は枢機卿のなかからえらばれるが、女性の枢機卿は今のところいないので、教皇は男性の職務である。
ふりかえればインドネシアの初代大統領スカルノには複数の妻がいた。年月を経てスカルノの長女・メガワティが選挙で大統領に選ばれたとき、副大統領はイスラム系の政党党首で複数の妻がいた。インドネシアは婚姻法で一夫一婦制を原則にしているが、例外的に一夫多妻を許容している。一妻多夫は認めていない。一方、世界には時代や地域によっては複数の夫を持つ妻も習俗として存在した。
日本の場合、徳川将軍家や大名などの武家社会では世襲の後継男子確保のために側室が制度化された。これは日本の朝廷も同じで、例えば、明治天皇も、大正天皇も側室から生まれた。徳川家斉には正妻以外に十数人の側室がいて、数十人の子どもが生まれたが、乳幼児死亡率が高かった時代のことで、その多くは若死した。育った子どもは大名家に養子としておくりこんだ。
皇室の後継者不足の対策としては側室制度や養子縁組が有効だろうが、21世紀のいまどき側室を制度化することには強烈な批判があろう。現行の皇室典範が養子を認めていないのは、天皇の血筋を守るためと考えられる。つまるところ、遺伝子の継承である。男性の遺伝子を尊重するあまり、男子の養子制度を解禁すれば、場合によってはより薄い遺伝子を求めるという矛盾にさらされる。
合計特殊出生率が1.14(2025年)の時代、徳川時代にも明治時代にも戻れぬいま、側室制度や養子制度に頼るのではなく、男女ともに皇位継承の有資格者とするのが、最もすなおな方法である。
(2026.6.15 花崎泰雄)